2016/10/11
今回は、経営改善のための財務分析 その5 同業他社比較よりも自社過年度比較による分析 についてです。
前回は、売上高の販売数量差異に関する詳細な分析でした。
私は、税理士、会計士として会計事務所を経営しており、多くの経営者から受ける質問の中で比較的多い質問の一つは、
「うちは、同業他社と比較して、どう?」
というものです。
しかし、この質問に対する私の回答は、いつも同じです。
つまり、同業他社比較をしてもあまり意味がありませんよ、ということです。
特に、上場株式に投資をしてより安全に、より効率的に運用益を上げたいという目的ではなく、主に、中小企業が経営改善のために財務分析をするのであれば、同業他社比較をする価値は、より乏しいと思います。
なぜなら、そもそも、財務内容、決算内容の比較に限らず、比較、をするためには、各種前提条件が同じであることが重要でありますが、前提条件が全く同じ同業他社というのは存在しない可能性が高いからです。
例え、同業であったとしても、具体的な事業内容、経営戦略、企業規模、立地条件、テナント条件、ターゲット顧客、その他、多くの要素において、前提条件が同じ、似ているというケースはまれです。
そして、そんな前提条件が異なる企業同士を、大きな枠組みで同業であることを前提に比較しても、その比較情報は、情報としての価値が乏しいと思うからです。
例えば、会計事務所といっても、私のように個人で、個人事業者、中小企業の会計税務をメイン業務としている会計事務所もあれば、私が過去に勤務していた監査法人といって、主に、上場企業の会計、決算の確認をする会計事務所もあります。
これらも同業といえば同業といえるかもしれませんが、厳密には、やっていることも、ターゲット顧客も、客単価も、関与度合、多くの点において相違しており、財務情報、経営成績を比較しても、あまり意味がないことがお分かりいただけると思います。
その上で、財務分析には、比較することが重要ですが、問題は、比較対象です。
つまり、同業他社比較ではなく、自社過年度比較の方が、非常に大切です。
財務情報について、自社の過年度実績と、直近実績とを比較して、大きな変動がある部分について、合理的な要因を見出すことが大切なのです。
一方、大きな変動がある部分について、合理的な要因を見出せないのであれば、問題があるか、改善の余地があるのか、もしうは、不正の兆候があるのか、等、要因を追及することが、経営改善への第一歩だと思います。
また、大きな変動をしていないとしても、ある程度、変動が予想される部分について、変動がなければ、それも上記の同様、問題、改善余地、不正の兆候等が潜んでいることが考えられます。
自社過年度比較は、単純かつ古典的な財務分析ですが、奥が深く、その変動について、また、変動がないことについて、すべてについて合理的な要因を把握している経営者は、意外と少ないと思います。
そして、そうしたケースこそ、経営改善の余地がある可能性が高いと考えます。
自社過年度比較を実施していない企業においては、まずは、その習慣を形成することが第一歩だと思います。